ダウン症候群について
ダウン症候群のある方の中年期以降の症状や特性について解説します
成人期になると、近視、乱視、遠視、緑内障などの一般的な視覚の問題のほかに、白内障や斜視がよく見られます。奥行きがわかりづらいので、階段やエスカレータなどの段差が見えず慎重に歩を進めるような歩き方になります。歩くときには急がさあいで本人の歩調に合わせましょう。エスカレーターの乗り降りをする際には、「1、2の3」、と数字を数えるような声かけをしながらタイミングを合わせるとスムーズに乗り降りをすることができます。
視力
中年期に差し掛かると、聴力が低下することで他人とうまくコミュニケーションが取れなくなることがあります。車や人が近づいてきても分からないことがあるので、外出をすることを警戒し始めます。一定の音階が聞きにくいようなので、何も返事をしない時があります。声をかけても反応が無い場合には、コミュニケーションに問題があるように勘違いされることもあります。話を聴いていないのではなく、聴こえていないのかもしれません。慢性的に中耳炎にかかることが多いので一時的な難聴になることもあります。耳鼻科の診察を受けてみてください。
聴力
手入れの不十分さや、歯並びの悪さから重度の虫歯がある人は比較的多く、歯肉炎などがある方も多く見受けられます。中年期でも乳歯のままで歯が抜けてしまい、それ以降は成人の歯が生えてこない場合もあります。入れ歯は保険 内の安価なものだと重たかったり、金属部分が歯型にあわなかったりして歯茎に痛みを感じると、装着することを拒絶しますが、もともと租借があまり得意ではないので、入れ歯がなくても食べることに支障はありません。よく噛まずに飲み込むのは口腔の形や舌の大きさの違いが関係している可能性もあります。定期的に歯科医に口腔チェックをしてもらい、専門家による口腔ケアや指導を受けて虫歯を少なくするようにしましょう。反復運動は好むので音楽やリズムを使いながら歯を磨くサポートをしてください。
口腔衛生
成人期から中年期になると、腰椎狭窄症(すべり症)や椎間板ヘルニアなどにより不安定歩行になることがあります。若い頃からダンスや運動で筋肉を鍛えているとかなりその症状は抑えられるのかもしれません。関節の構造や炎症の兆候、可動については定期的に検査を受けておくとよいでしょう。加齢と共に、歩くスピードも比較的ゆっくりとしてきて、一歩の間隔が狭かったり、両足の長さが異なる場 合には足を引きづるようにして歩くこともあります。脊椎から背骨にかけて側弯症や脊髄圧迫がある場合、左右どちらかに傾いたような状態で歩く場合もあります。その場合には、腰に負担がかかり、早い年齢のうちから腰が前に曲がったような姿勢になります。早めに症状の変化に気づき、腰椎ベルトをしめたり、整体やストレッチなどをして、成人期から中年期以降は、筋肉が固まらないように心がけましょう。水虫や爪の不調に対しても、本人が違和感を訴えることができないことがあります。手足の先に触れられることを極端に避ける感覚過敏な特性もあるので、足の状態を観察して適切な処置を早期に施すことで、腰や膝の問題を解消することに繋がります。
歩行
ダウン症候群のある児童の教育環境整備
国連世界ダウン症会議において、ユニセフ=国連児童基金で障害児支援を担当する責任者は、世界142か国の政府や市民団体と連携して2030年までに、ダウン症を含む3000万人の障害がある子どもたちがきちんとした教育を受けられる環境を整備していく考えを示しました。そのうえで、学校の教師や教育行政の担当者を対象にダウン症の子どもを普通学校で受け入れるための研修プログラムを各国で実施していく方針を示しました。
ダウン症候群とは
ダウン症のことを「病気」だと診断する医師がまだいるようですが、、ダウン症候群があっても健康に暮らしている方はたくさんいらっしゃって、ずっと病気なわけではありません。ダウン症候群は「疾患名」 として診療をする上で必要だからつけている名称です。障害ではなく、ひとつの体質であり、特性であると捉えてみましょう。
ダウン症候群のある中年期の人の症状と特性
ここでは、中年期以降のダウン症のある人の心身の症状やその特性、関わり方について解説します。
これらの症状を「急激退行(症)」という言い方をしますが、その原因には「反応性鬱」や「心身症」、「甲状腺機能低下症」など、様々な要因が含まれます。医学的に「退行」というのは、以前できていたことができなくなったことを指すと同時に、元に戻らないことを意味しますが、ダウン症の「急激退行」では、治療できる原因があるので、包括的に診察し、原因を探る必要があります。うつ病かもしれないと決めつけて投薬治療を始めたことで余計に意識が混濁してしまったり、逆に暴力的になるケースもあります。投薬治療を始める前に、じっくりと時間をかけて本人と話したり、職場や作業所、その往路復路などで何か変わったことがなかったか、家族が亡くなったり病気になった人がいないか、何か不安なことはないか、今までできていたのに最近できなくなったことはないか、などの日常生活での変化をよく観察してみましょう。
ダウン症のある人の特性の一つとして、一つのことを質問しても、それを理解することに時間がかかることがあります。答えがすぐに出てこなくても待つことが大事です。時間をかけて何度も諦めずに繰り返し穏やかに語り掛けることで、少しずつ話し始める時がきます。本人が環境の変化に納得し対応することで、徐々に平常に戻る場合もあります。
また、就労意欲が無くなったように見えるので、「無理に仕事をしなくていいでしょう」と判断してしまうことがありますが、ダウン症のある人はもともと就労意欲がとても高いのです。自分が誰かの役に立つことを幸せに感じている人もいます。その気持ちを理解して、作業所に通うというルーティンワークを維持してください。彼らが就労意欲を失ったのではな く、早老期に入る一歩手前の時期なのだと捉えてください。時間をかけて『現状維持』に努めましょう。自宅に居ることを好む場合、家庭の中で役割を得られると良いでしょう。
ストレスが多かったり恐怖感を持っていると、言葉で表現することができずに大声で泣いてしまうことがあります。その時には何が怖いのか、何が不安なのかを尋ねましょう。もし過去の出来事がフラッシュバックして、あたかも今起きたかのように感じて泣いてしまっているとしたら、どうしたの?と声をかけると余計に泣き止まないことがあります。目を配りつつ泣かせるだけ泣かせることで、不安や悲しさなどの感情を本人が自分で整理することができて、泣きやみます。気持ちが落ち着いてから、どうしたの?と声をかけて理由を聞き、それはいま起きていることではないということを教えてください。
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ダウン症のある方々は、特徴的な手の形をしています。指が短くて太く厚みがあります。小指の第二間接が短かいことも特徴の一つです。彼らの指先の感覚は、モノを認識するまでに時間がかかることがあります。軍手をして折り紙で鶴を折っているような感覚です。紙と紙を合わせる時や、膨らませる時など、指に紙の感覚があまり伝わってきません。タオルや洋服をを何度も合わせてまた広げるという動作を何十回もすることがあります。こだわりという特 性でもありますが、指の皮膚感覚が分かりづらいので、何度も確かめるように折り直しているのかもしれません。見ているほうがイライラしてしまうかもしれませんが、物を掴んだり、たたんだりすることは、彼らにとっては一苦労なのかもしれません。反復運動が好きなので手技は丁寧に行います。手と手の接触を好み、優しい性格と持ち前の明るさがあるので、ハンドマッサージのようなセラピストの職業への道も開けるかも知れませんね。
手の感触
睡眠時無呼吸症、低呼吸などの症状が出てくる場合があります。そのため慢性的な睡眠不足に悩まされるので、日中に急に眠気に襲われたり居眠りをする傾向があります。扁桃腺肥大や、大きな舌、気道が狭く、口内や咽頭の筋緊張低下などが原因で、気道閉塞による無呼吸に陥ります。本人はさぼっているわけではないのですが、急激な睡魔で授業や作業所の仕事に支障をきたす場合もあるので、なるべくリラックスさせて安眠できる状態を作りましょ う。
睡眠障害
体質によって、筋肉質型と痩せ型と肥満型があるそうです。舌が大きく口腔内が狭いのでうまく咀嚼することができず大きな舌でまとめて丸呑みする傾向があります。足首が細く身体を支えられない場合には運動量が少なくなります。ダンスなどが好きで身体を動かす人はやや筋肉質型に多く見られる傾向かもしれません。一部のダウン症の方にはこだわりが強く出て特定のものしか食べない、呑まないことがあり、その行動問題の解決が必要なので青年期から医療的ケアを受けた方が良いでしょう。自閉症を伴うダウン症のある方は、水を飲みすぎてしまうこともあるので2リットル以上飲んでしまう場合には水中毒になる可能性があるため、医療的ケアが必要です。基礎代謝が低く、肝機能の低下、コレステロール高値、中性脂肪高値などが多くに生活習慣病が見受けられます。高尿酸血症(後述))が認められる場合には痛風や関節炎を伴うこともありま す。投薬治療医と食事療法で完治することも多いので、定期的な健康診断をお勧めします。体重が増えることで膝や腰にも痛みが増え、関節炎も高確率で発症しやすくなるので、体重のコントロールは充分注意したほうがいいでしょう。
肥満と代謝
運動をしていても体重が増えてしまう場合には、日常的なストレスや間食が多いなど、肥満に繋がる要素がないかどうか確認してください。45歳を過ぎると体重が減少し始めますが、精神的なストレスや合併症が起因することもあるといわれています。ダ ウン症のある人は食べ過ぎてしまう傾向にあるようです。。仲にはII型糖尿病を持つ人がいますが、甲状腺機能に問題を抱えることもあり、体重の増減、起きられないほどの疲労感などを感じてしまうことがあります。自分の体調の変化を感じ取って他者に適切に伝えられな かいので、朝起きるのがつらくなったり、さぼっているように勘違いされがちです。そういった背景を見逃してしまうことで抑うつ状態になったり、行動が荒々しく変化 たり、し暴言が多くなったりすることもあります。成人後は人間ドックを定期的に受診し、血糖検査は定期的に行いましょう。
生活習慣病
成人になると高い確率で甲状腺機能に異常が見られることがあります。思春期前後から 20 歳代では亢進症が多く、それ以降は低下症が多いそ うです。定期的に血液検査を受け、甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、自己抗体の測定を行ってください。
甲状腺機能障害
言葉を出すことに時間がかかるので吃音になることがあります。答えを急いだり、別の質問をしたりするとかえって混乱してしまうので、言葉が出るまで待つことが大事です。
吃音
成人になると半数近くの男性に多く見られます。みられる病態です。痛風になったり腎結石になる確率も高いのと、水分摂取量が少ないので高尿酸結症が多くなるそうです。 年に一度は血清尿酸値を測定し、日常生活では水分を1日に2リットル摂取するように言われますが、そこまで摂取できない場合にはできるだけこまめに水分を摂らせるように心がけましょう。
高尿酸血症
アトピー性皮膚炎に悩まされる方も多いようです。皮膚が弱いのでお風呂上りなどには保湿クリームを塗り、ストレスを軽減するなどの配慮をしましょう。あまりにも痒くてかき壊してしまうことがありますが、バンドをしたり痒くなったら保湿剤をこまめに塗る習慣をつけると良いでしょう。それでもかいてしまうのは、仕方のないことです。
アトピー性皮膚炎
自閉症傾向
歯ぎしり、ひとりごと、手をもみ合せる、唸る、体を前後に揺らす、顔を撫でて奇妙な顔をする、喉や頬を鳴らす、手をひらひらさせる。これらの常同行動はチック現象と呼ばれています。自閉症の傾向が強く出ている場合には、これらのチック現象がみられm差う。彼らは反復運動が好きなので、これらの行動をしているときには、気分が楽しい、満足している、興奮している、あるいは、ストレスがある、動揺している、不安、などの気持ちの現れとなっていることが多いようです。すぐにはなかなか答えませんが、ゆっくりと時間をかけて、その行動を起こしているときにどんな気持ちになっているのかを本人にきいてみましょう。マイナスの要素がある場合には、それを取り除いたり、その不安を聞いてあげたという行為によって、チック現象が治まる場合があります。最重度の場合を除き、薬物療法などは避けたほうがいいでしょう。
ひとりごと
家の中でも、外にいても、ぶつぶつと独り言をいうことがあります。彼らは豊かな空想性を持つことを理解してください。空想や、想像上の世界に行っているとか 、戦隊ヒーローの世界にいるかのように話したりするときがあります。自分で自分に話しかけることもありますが、そうすることで「納得」して次の行動に移ることができます。これらの行動は、彼らの特性としては正常なことです。独り言をやめさせない、公の場で独りごとを言うと周りの人は何だろうと思ってしまうということを本人に伝えましょう。周りの人には、これはダウン症のある方としては正常な行為であるということを覚えておいてください。独り言の内容が空想やつくり話であればいいのですが、あいつが悪いんだ とか、僕のせいじゃないのに とか心的な感情を繰り返し独り言で話している場合には、何か心配事があるのかを本人に尋ねてください。ストレスがないかを確認するきっかけとなります。
自傷行為
子どもの頃から、自傷行為が出てしまうことがあります。自傷することで不安が和らぐことを憶えてしまった場合には、その自傷行為が止まらないことがあります。家庭内の不和や暴力などがある場合には、幼い頃から子の自傷行為が出る場合もあります。自分の顎や頭を叩くのは、不安によって生じた自分の気持ちをコントロールするために行っているともいわれています。自閉症スペクトラム障害にも見受けられますが、手を噛んだり、胸を叩いたり、壁に頭をぶつけることもあります。それらの原因が何かを知ることはとても難しいことが多々あります。自傷を始めたら、家族や周りの人が手を叩く素振りをみせます。そして、顎や頭じゃなくて手を叩いてみようと促します。気持ちが落ち着いてきたら、一緒に手を叩く練習をしながら、今の気持ちを声に出す練習をします。この方法は効果的であると米国の臨床結果が出ています。
生きがいを見つける
仕事や職場 での対応:加齢と共に作業にかかる時間が多くなり、一日の目標としている行程を完了できないことが続いたり、職員や仲間から遅いと言われたりすることで、 見た目にはまだ若々しいが内面的には急速に衰えていることを考慮しない環境にいることで、徐々にモチベーションが低下することがあります。ストレスやここ ろに負荷がかかると、内側にこもってしまい、引きこもりになるケースもあります。本人や家族や周りの関係者が、本人の生きがいを見つける努力をしてくこと が望ましいといわれています。きょうだいとしては、たまに戸外に遊びにつれて行ったり、話し相手になるなどから始めてみるのもよいかもしれません。
Regression Phenomenon
退行現象
誰にでも起こりうることですが、ダウン症のある方が中年期になると、次のような症状が顕著に生じるようになります。
・急に泣き出す
・動作が緩慢になる
・発話が極端に減る
・サインやうなづきで意志を表現する
・触られることを極端に拒む
・こだわりが激しくなる
・以前よりも更に頑固になる
・興奮してパニック状態になる
・幻聴や幻覚をみる
・ひとりごとが止まらない
・食欲が減退し急に体重が落ちる
・部屋に引きこもる
・無気力になる
・好きなTVや趣味などに無関心になる
・睡眠障害を起こす