小学生に向けてヤングケアラーの解説をする時には、児童生徒の発達成長と心理的な葛藤に配慮しなければならない。このニュースから何を読み取ったのかを編集長が語ります。
8/4(日) 17:30配信 南日本新聞社 より抜粋
8月4日(日)、南日本新聞社は、「隠れヤングケアラー」を見逃すな 全生徒アンケから浮かんだ家庭の実態 薩摩川内市が始めた「誰も置き去りにしない」取り組みと題して、鹿児島県薩摩川内市の小学校での取り組みを報道しました。
7月中旬、薩摩川内市の永利小学校の小学校4年生~6年生に向けて、市役所の職員が「当たり前だと思っている困りごとはヤングケアラーの悩みかも」と語りかけたそうです。
記事後半に書かれていた、
話を聞いた永利小6年の平井ひなたさんは「いつも遊べない友達がいたら困っていないか聞いて助けたい」と話した。一方で児童に対する無記名アンケートの中には、今後のトラブル対応の回答で「誰にも言わず自分で解決する」を選択した回答も複数あった。
(※同記事から引用)
ここでは「かわいそうだから助けてあげたい」とは言及していないので、憐れみの感情からの発言ではなかったことを信じたいのだが、盲点も示されていると思います。「困っていないか聞いて助けたい」と思う生徒が生じる一方で「誰にも言わない」と回答する生徒がいる。このギャップにこそ、気づかなければなりません。
では、そのギャップの背景に潜むのは、同級生に「助けたい」と思わせてしまうことは無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を生む温床となりかねないということです。
同級生や先生が家族のケアをしている児童生徒に憐れみの感情を抱き、自分は違うけれど、その子はかわいそうだから「助けであげたい、救ってあげたい」と思えば思うほど、ヤングケアラーは隠れてしまいます。それが「誰にも言わずに自分で解決する」という回答につながっているのです。
誰にも言わない=自分がヤングケアラーであることに気付いていない=(だから)SOSが出せない、というロジックで解釈されていますが、はて? 本当にそうなのでしょうか。
自分で解決するというのは、自分で考えて行動する「自律」の第一歩です。弱い人を助けましょうという弱者救済の思想から児童生徒を助けるようとすると、子どもにせっかく芽生えた「自律」という新たな芽を摘み取るようなことになってしまいます。
それだけではありません。自分のことを誰かに助けてもらわなければならない社会的弱者として周りの人に捉えられてしまうことに違和感、いいえ、嫌悪感があるから言い出せない、こうした繊細な子どもの気持ちを理解する必要があります。
子どもが自らSOSを出せる環境を作るよりも前に、なぜSOSを出せないのかという子どもの心理状況を把握することが先決です。
小学4年生というのは「10歳の壁」真っただ中です。この時期は、学童保育期のサポートが無くなることでストレス状態に置かれる思春期一歩手前です。仲間意識が芽生え、自分と似た者同士が集まり、異なる者を排除する思考が湧き始める時期で、それは成長発達過程の自我の目覚めという時期でもあります。
一方、小学5年生~6年生の高学年になると「前思春期」というデリケートな時期に入ります。心も体も子どもでも大人でもない微妙な時期に突入する前思春期の子どもの関心事は、親子関係から仲間関係へと移っていきます。仲間との共感を楽しんだり、感動したり、傷ついたり、苦しんだり、仲間外れやいじめが顕著になり始める時期でもあります。
ヤングケアラーは、親子関係やきょうだい関係といった「家族中心型の生活」と「仲間関係を重要視する学校生活」の両立をしなければならなくなるのです。
前思春期の児童生徒はまた、自分自身で選んだものをとても大切にします。そのため、自分が選んだもの、つまりヤングケアラーの場合は、家族のケアをすることを選んだことを否定されたり、かわいそう扱い(弱者扱い)をされることはとても嫌なことであり不本意なことなのです。
そんな微妙な時期に「ヤングケアラーはかわいそうだから助けましょう」という印象を同級生や先生の思考に植え付けられてしまうと、その学校の中で同級生同士の仲間から自分が排除されてしまうのではないか、という不安を助長してしまいます。
こうした他人事の風潮が学校(社会)の中に広がってしまうと、子どもはSOSを出すどころか、自分が家族のケアをしていることを頑なに言わなくなってしまいます。
前思春期に入る一歩手前の小学4年生と、前思春期に突入する小学5年生、6年生が一緒にヤングケアラーについての話を聴くと、それぞれが受け取る印象は異なると思います。
小学校での授業では、家族のケアをすることを特別扱いしないことが大事です。そして、子どもの発達成長と心理的な葛藤に配慮しながら、ヤングケアラーについて何をどの様に伝えるのかを慎重に考えて、取り組んでいかなければなりません。
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執筆者
一社)ケアラーアクションネットワーク協会
代表理事・ケアラーズプレス編集長
持田恭子
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